グレート・ギャツビー





『グレート・ギャツビー』


'Whenever you feel like criticizing anyone,'he told me,'just remember that all the people in this world haven't had the advantages that you've had.'

――村上春樹 訳

「誰かのことを批判したくなったときには、こう考えるようにするんだよ」と父は言った。「世間のすべての人が、お前のように恵まれた条件を与えられたわけではないのだと」

二十一歳にして限定された分野で突出した達成を遂げ、そのおかげで、あとは何をやっても今ひとつ尻すぼみという、世間にありがちなタイプの一人だった。

女の子で嬉しいわ。馬鹿な女の子に育ってくれるといいんだけれど。それが何より。きれいで、頭の弱い娘になることが。

女房はニューヨークの妹に会いにいくんだと思っているよ。なにしろ血の巡りの悪いやつでね、自分が生きているのかどうかだってよく知らないんじゃないかな。

僕らのいる部屋の、明かりのともった一列の黄色い窓が、都市の頭上高くにぽっかりと浮かんでいる様は、暗さを増していく通りに立つ行きずりの人の目には、秘密めいた人の営みの一端として映っているに違いあるまい。僕はまたその行きずりの人でもあった。上を見上げ、そこにいったい何があるのだろうと思いを巡らしている。僕は内側にいながら、同時に外側にいた。尽きることのない人生の多様性に魅了されつつ、同時にそれに辟易もしていた。

人は誰しも自分のことを、何かひとつくらいは美徳を備えた存在であると考えるものだ。

過酷ではあるが半ば惰性的な労働

現実というものの非現実性について、それは納得のいく示唆を与えてくれた。

夜は冷やかで、年に二度めぐってくる自然の変貌に伴うなぞめいた高ぶりが、あたりに感じられた。

「僕は三十歳になった」と僕は言った。「自分に嘘をついてそれを名誉と考えるには、五歳ばかり年をとりすぎている」

ギャツビーは緑の灯火を信じていた。年を追うごとにわれわれの前からどんどん遠のいていく、陶酔に満ちた未来を。それはあのときわれわれの手からすり抜けていった。でもまだ大丈夫。明日はもっと早く走ろう。両腕をもっと先まで差し出そう。……そうすればある晴れた朝に―― だからこそ我々は、前へ前へと進み続けるのだ。流れに立ち向かうボートのように、絶え間なく過去へと押し戻されながらも。






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